第9章 ラッキーアイテム
「遅くねぇか、あのふたり。ちょっと覗きに行こーぜ」
「やはりお前は馬鹿なのだよ」
「とかなんとか言って、みどりんもついてくるんだね」
階段を上がってくる足音を敏感に察知して、黄瀬は愛撫の手をピタリと止めた。
「ちぇっ、残念。いいトコだったのに」
「は、ぁ……っ」
自分の胸に身体を完全に預けて、息を乱す結の額にチュッとキスをすると、黄瀬は名残惜しそうに服の中から手を引っこめた。
「そんなトロけた顔しちゃって……」
まだ火照る頬に指を滑らせると、しっとりと濡れた唇に、もう一度食むようなくちづけを落とす。
「ご馳走さま」
「も……、黄瀬さんのバカ……」
「結が美味しそうなのが悪いんスよ。この続きはまた今度、ね?」
その瞳にくっきりと浮かぶ、抗うことを許さない欲情の色。
熱い視線に絡めとられて目を逸らすことが出来ないまま、結は小さく首を縦に振った。
「で、結」
「……ん?なぁ、に」
「オレのテクはどうだったスか……ぅわあぁぁっ!」
階段を上がってきた三人の目の前には、結の部屋から叩き出された無惨な黄瀬の姿があった。
「うわぁ、きーちゃん残念」
「馬鹿は死ぬまで治らないのだよ」
「なんか腹立ってきた。黄瀬ぇ、一発殴らせろ」
青峰が拳を鳴らす音と部屋のドアが閉まる大きな音が、見事に重なる。
「結……ご、めん」
駄犬のつぶやきが、扉の向こうに届いたのかどうか──それは結にしか分からない。
end