第7章 リミッター
「はぁ……」
「ちょっと結。次に溜め息ついたら、ここの会計払わせるからね」
「え?」
自分でも気付いていなかったのだろう。
フワフワのパンケーキを前に、なかなか食が進まない結を前に、今度は友人が溜め息をついた。
「そっか。イケメンの彼、今週は試合なんだっけ?会えなくて淋しいんだ」
「ム、別に……」
ナイフとフォークを手に取り、勢いよく食べはじめた結の頬は、パンケーキに添えられたイチゴのように赤く熟れていった。
今週末、海常に急遽組まれた練習試合は、一泊二日という宿泊付き。
お互い、勉強に部活にとそれなりに忙しく、もともと会える時間はそう多くない。
彼の顔を最後に見たのは、何週間前だろう。
今春に入部した一年生の親睦も兼ねて……と発案した武内監督のふくよかな腹に、ボールでもぶつけてやりたい気分だ。
(跳ね返ってきそうだけど)
そんな若干失礼な想像で気を紛らわせながらも、頭に思い浮かぶのは愛しい人の姿ばかり。
「……会いたいな」
心の声が駄々漏れだ。
「ご馳走さま」
目の前に差し出される細長い伝票を一瞥すると、結はクリームたっぷりのパンケーキを口いっぱいに頬張った。
『試合終了
いま話せそうなら電話くれる?』
テーブルの上に置かれた携帯の振動に、結の頬が自然と緩む。
色恋沙汰に縁のなかった彼女のこんな顔が見られる日が来ようとは。
頬を染めて画面を覗く結に向かって、友人は今日二度目になる溜め息を深々とついた。
「命短し恋せよ乙女、か。ホントあの結がね……信じられないよ。ちょっ、ドコ行くの!?」
そんな友人の声を背中で聞きながら、結は「ごめん!ちょっと電話してくる!」と慌ただしく席を離れた。
携帯を胸に抱きしめて、賑わいをみせる店内の中、会話出来そうな場所をキョロキョロと探す。
その表情は、間違いなく恋する乙女のものだった。
『もしもし、結?』
ツキンと痛む胸に、結は手を押し当てた。
電話越しの声すら愛しくて、会いたい気持ちは募るばかり。
「あ、はい。試合は無事に終わったんですね」
『ウン。で、今どこいるんスか?』
「え、今ですか?」