第54章 エンドレス
くり返されるキスの波にのみこまれるように、細い指が金の髪をかき乱す。
「ん、ぁ……涼太、好……き」
「オレも、ン……スキ。も、お前だけだ……オレが欲しいのは」
「りょ、う……っ」
「────結、結……愛し」
「おーい。リョータぁ」
こみあげる想いのまま、まさにこぼれ落ちんとする愛の言葉を遮ったのは、深みのあるバリトン。
「!?」
我に返ったように目を開けた黄瀬は、同じように驚きで目を丸くする結と視線を交わしながら、ゆっくりと唇をほどいた。
「いつまでイチャついてるつもりだよ。みんな待ってンだけど」
小さく飛び上がって、隠れるように胸にしがみついてくる姿が可愛くて、ギャラリーに関係なく続きをしたいと思ったことは彼女には内緒だ。
「その声……レ、レンさん!いつから居たんスか!?」
「そんな野暮なこと聞くなよ。俺はただ、こんな場所でおっぱじめたら結ちゃんが困るだろうと思ってさ」
「ちょっ、レンさん!」
この色男は遠慮という言葉を知らないのだろうか。
(でも、ちょっと助かったかも……)
ずっと大切にしていた言葉を、湧き上がる感情のまま口にしてしまうところだったのだから。
それは今、この場所だからこそ思わず出そうになった告白だと言えなくもないが。
「結ちゃん、邪魔しちゃってゴメンね~。続きはリョータ君の部屋でってコトにしてくれるかな?もうこれ以上はキミのお兄さんを引き止められそうにないから、さ」
「……っ」
ニコニコとふたりを見つめる瞳は、何を考えているのかまったく分からないのに、どこまでも優しくて。
「レンさん!そんなこと言ったら、結が恥ずかしがって逃げちゃうじゃないスか!あ、ちょっ!結、待って!」
案の定、腕からスルリと逃げ出した恋人を、一目散に追いかける黄瀬の背中に、楽しそうな声が降る。
「はは。ホント、面白いよな。リョータは」
「笑いごとじゃないっスよ!」
全国制覇という夢への道のりが、どれほど厳しくて険しいかは知っているつもりだ。
「よくやったな、キャプテン。おめでとう」
叶蓮二は賞賛の笑みを浮かべながら、新たな夢に向かって歩みはじめるであろう後輩のさらなる成長を願うように、漆黒の瞳を綻ばせた。
end