第54章 エンドレス
「おめでとう。涼太」
「へ……母、さん?」
腰に手を当て、カツンと床を鳴らすヒールは、彼女の戦闘必須アイテム。
だが、涙と笑顔につつまれた表彰式を終え、仲間達と喜びを分かち合いながらロビーに姿を見せた息子を見つめる瞳は、その颯爽とした装いに反して少し赤い。
「な、んで?仕事で来られないって言ってたのに」
ようやく落ち着いた心を乱すような家族の登場に、驚き立ちすくむ青の主将とよく似た面影の母親は、イタズラな顔で片目を瞑った。
「息子の晴れ舞台を見に来ないわけないでしょ。オンナの言葉を素直に信じるなんて、アンタもまだまだね」
得意げに腕を組む母親の隣で、「よくやったな」と微笑むのは父の姿。
静かな佇まいの中にも喜びをたたえ、念願の全国制覇を成し遂げた息子を見守る目は、誇りと愛情に満ちていた。
「父さん……」
「涼太ーーっ!優勝おめでとう!」
「りょ、涼太ぁ……おめで、と……うぅっ」
大きく手を振る長姉と、その腕にすがりついてよろめく次姉の性格はどうやら正反対らしい。
「なんのドッキリっスか。も、カンベンしてよ」と苦笑いしつつ、黄瀬は末っ子の顔をチラリと覗かせながら、照れくさそうに目尻を下げた。
「涼太君のお姉さんですか。はじめまして、わたくし森山と申します。それにしても美しい……」
「コラ。お前は凝りもせず」
泣きはらした顔ですら美しいふたりの姉に、スルスルと近寄ろうとする森山を押さえる小堀の隣で、「ったく」と溜め息をつく笠松が、小さく鼻を啜った。
「笠松。お前ナニ泣いてんだよ」
「な、泣いてませんよ!水原センパイこそ、目が真っ赤じゃないですか!」
「う、うるさい!シバくぞ!」
これも海常の伝統──と胸を張って言えるのかはともかく、なごやかな雰囲気に感極まったように、隣でぽろぽろと涙をこぼす結の肩を、黄瀬はそっと抱き寄せた。