第53章 ファイナル
「ぎぜぇぇーーっ!よぐやっだあぁぁーーっ!!」
「それ、普通に何言ってるか分からないぞ。落ち着け、早川」
泣きじゃくる早川を、フォローするのは今も変わらず中村の役目。
(早川センパイ、中村センパイ。あの時の約束は、ちゃんと果たしたっスよ)
小堀と森山は、押しつぶさんばかりに笠松に抱きついて、今にも蹴られそうになっていることにも気づかずに、むせび泣いている。
(小堀センパイ、森山センパイ。生意気な後輩をここまで導いてくれて有難うございました。
そして、笠松センパイ……)
ひとことでは語り尽くせない想いがあふれて、心の中でさえ言葉にならない。
「いつまでも鬱陶しーんだよ!」と両隣に見事な蹴りを入れ、精悍な顔で白い歯を見せる笠松に、黄瀬は精一杯の笑みを返した。
赤い目で拍手を送ってくれている翔には、姿勢を正し、ただ祈る。
(たくさんの声援、有難うございました。結は必ずオレが幸せにします……ってシバかれそっスね、間違いなく)
振り回されてばかりの事務所の先輩も。
同じコートで戦ったライバル達も。
そして、冷たい雨の中、背中を押してくれたかつての恋敵も。
(今オレがここにいるのは、自分だけの力じゃないことを絶対に忘れない……)
ゆっくりと目を閉じた黄瀬の、ふらつく身体を支えてくれたのは、いつの間にか彼の周りに集まっていたチームメイトだった。
「みんな……」
「大丈夫か?」と肩を貸してくれる澤田の目に浮かんだ涙が、一粒こぼれ落ちるのを合図に、黄瀬は緊張の糸が切れたように大粒の涙をボロボロと流した。
勝った
優勝した
「澤田、っち……」
「とうとうやったな、キャプテン。お疲れさん」
ふたたび起こる歓声と拍手が、それを受け入れてくれるかのように優しく彼らをつつみこむ。
「なぁ、後で水原さんを胴上げしてもいいか?」
「む……それはカンベンして欲しいっス。アイツに触れていいのはオレだけだから」
「ちぇっ、ノロけやがって」
汗と涙にまみれた顔をユニフォームで拭うと、黄瀬は最上級の笑みを、高校生らしいその顔に浮かべた。
「応援、有難うございました!!」
「「「有難うございました!!」」」
黄瀬涼太率いる青の精鋭達は、誇らしい顔を観客席に向けると、深々と頭を下げた。
end