第52章 ビトウィーン・ザ・シーツ
全国一、二の年間入場者数を誇るテーマパークは、さすがにクリスマスということもあって、夜になっても人が減るどころかその密度を増していく。
ある程度は覚悟していたが、正直ここまでとは思わなかった。
「ずいぶん歩いたな。疲れてねーか?」
「ううん、全然。わぁ~見て見て、あれ可愛い!」とはしゃぐ恋人が、ふたつ年上とは思えないあどけない笑顔で袖を摘んでくる。
(くそ、可愛い……)
髪を耳にかける仕草に見惚れるのはいつものこと。
その耳に光るピアスから、つい思い浮かんだオトコの顔を、俺は頭を振って追い払った。
「どうしたの?翔くん。もしかして、もうお腹減ったとか?」
「ちげーよ。てか、食ったばっかじゃん」
「あ、そっか」
ぺろりと舌を出しておどける恋人を、混雑から守るように抱き寄せた肩は細く、この後訪れるふたりの夜に、善からぬ妄想は膨らむばかり。
(やべぇ……今からキンチョーしてどーすんだよ)
今夜は初めての泊まり。
素直にクリスマスイベントを楽しんでいる恋人に負けた気がするのは、惚れた弱みというやつかもしれない。
なにしろ五年越しに実った恋、なのだから。
いや……六年か?
「ねぇ、次はどこ行く?……あ」
悶々とするオトコの気も知らず、無邪気な顔でキョロキョロと辺りを見回していた動きがピタリと止まる。
「どーした?」
追いかけた目線の先には、頭上にある看板を指さしては、次々とキスを交わす恋人達の姿。
いくら聖なる夜とはいえ、まだ家族連れがいる時間帯にすべき行為とはとても思えない。
外見と違って、頭がカタいと言われるこの性分は、親父に似たんだろうか。
「なんだ、アレ」と眉間に刻んだシワを、そっと指で押さえる彼女が可笑しそうに笑う。
「昭和のガンコ親父みたいな顔しないの。あれって多分、宿り木……じゃないかな」
「オヤジって言うな。てか、ヤドリギって何だ?」
「幸運をもたらすって言われてる聖なる木のことだよ。外国の映画や、クリスマスソングなんかにも出てくるの」
「へぇ」と返事はしたものの、何故あんな風にキスしているのかは分からないまま。
そんな疑問を見透かしたように「宿り木の下では、女の人は男の人からのキスを断れないっていう言い伝えというか、習慣があるんだって」と続く言葉に、俺は思わずつんのめった。