第50章 リカバリー
「すんませんでしたっ!」
早朝の体育館に響く謝罪の声。
週末の練習試合に向け、朝練にも足を運んでくれている監督の前で、黄瀬涼太は深々と頭を下げた。
部活の無断欠席。
青の精鋭を率いる者として絶対に許されないことをしたのだ。
控えめなボールの音と、背中に感じる視線に胸が痛む。
昨日は、彼女のことで頭がいっぱいだったとはいえ、同じ目標に向かって汗を流してきた仲間達に合わせる顔がない。
黄瀬は頭を深く下げたまま、ギリと唇を噛んだ。
「黄瀬」
「ハ、ハイ!」
硬い声にすぐさま頭を上げると姿勢を正す。
だが、表情を引き締めた黄瀬に降ってきたのは、思いもかけない言葉だった。
「水原はもう大丈夫なのか?」
「………へ」
武内は、すぐにでも冬眠を始められそうなお腹を揺らすと「風邪か?アイツには早く元気になってもらわんと、うちも困るからな」とふくよかなアゴに手をあてた。
(話が見えない……けど、これってもしかして)
国語の読解力はともかく、話の流れを読みとる力に長けた黄瀬は、さっきから視界の隅に入ってくるクラスメイトにチラリと目を向けた。
ボールの陰で小さく親指を立てて、白い歯を見せる澤田の得意げな顔に、黄瀬は泣きそうな笑みを浮かべた。
(ああ……仲間って、ホントいいもんっスね)
「お前が見舞いに行ったところで、何かの役に立ったとは思えんが」
「ちょっ、ヒドいっスよ。監督~」
「今後、練習を休む時は俺に直接言いに来い。あと、週末の試合は絶対に勝て。いいな」
「ハイ!」
「負けるわけないでしょ、監督。うちにはコイツがいるんだからさ」
「黄瀬センパイ!早く、練習始めましょう!」
何事もなかったかのように振舞ってくれる仲間達の声が、胸に沁みる。
黄瀬はツンと鼻の奥に感じる痛みを追い払うと、雲間から顔を出した太陽のようにまぶしい顔で笑った。
「うっし!じゃ、今日も張りきっていくっスよ!」
いつもの……いや、いつも以上に活気ある声に、瞬く間に空気が熱を帯びる。
昨日の朝、やつれた顔で力なくボールをついていた海常のエースの復活に、武内はひそかに胸をなで下ろした。
「まったく、どいつもこいつも……」
ギシリと悲鳴をあげるパイプ椅子に腰をかけ直すと、武内はアップを始める部員を見守るように両腕を深く組んだ。