第48章 オンリーワン
*
「痛、ッ」
その時、足に走る痛みに小さく呻くと、黄瀬は派手な音とともにソファから転がり落ちた。
「っ、黄瀬さん!?」
パタパタと駆け寄ってくる足音だけで、幸せが細胞を満たしていく。だからといって、痛みが引くわけではないのだが。
「あ、足……つった」
「ゆっくりでいいので、仰向けになれますか」
「ウ、ン。いてて」
つま先を持ち、痙攣したふくらはぎの筋肉を伸ばす手に、つい呼吸が止まる。
「く」
「息、止めないで。身体に力が入ると痛みがひどくなるんです。ゆっくり吸って……吐いて」
冷静な声に応えるように、黄瀬は大きく息を吸いこんだ。
「何か手伝えることある?」「じゃあ、スポーツドリンクがあればお願いできますか」という女性陣の連携プレーを聞きながら、少しずつ和らいでいく痛みに息を吐く。
「ふぅ。ちょっと治まってきた、かも」
「良かった……あ、駄目ですよ、まだ起きあがったら」
コレ、借りますねとソファにあったクッションを手に、頭を持ち上げようと身を屈める彼女の白い襟から、シャラリとこぼれるペンダントトップが頬をくすぐる。
次の贈り物はもう決めてある。
彼女と離れる?そんなことは考えたこともないし、考えられない。
むしろ──
「結」
「まだ痛いですか?」
『でも』の続きは、今度じっくり身体に聞くことにしよう。
でも、お互いどんな道を選んだとしても
たとえ物理的に離れる日が訪れたとしても
(オレが帰る場所は、ひとつだけ)
「好きっスよ」
「!?」
テキパキと処置していた手を止めて、狼狽える恋人の隙をつくように唇にキス。
「も……っ、何して!」
真っ赤な顔で怒る姿も、小さな身体に秘めた芯の強さも、ベッドで乱れるしなやかな身体も。
(あぁ、ホント好き)
「へへ。ゴメン、つい」
「ついじゃないですよ、もう……」
ドリンクを渡した後、いつの間にか姿を消した母親。これは、今がそのタイミングだという神さまのお告げかもしれない。
(あんな可愛いこと言われたら、ウィンターカップが終わるまで待てないっての)
「ね、高校卒業したらさ……」
彼女のリアクションはいつも想定外。今日はどんな表情を披露してくれるのだろう。
先の読めない未来に、黄瀬は胸を膨らませた。
Happy end
→another √