第4章 スウィートハニー
「あの蜂蜜レモン、すごく甘くて美味かったんスよね」
「あの……って?」
刺すような視線を感じ、何気なく隣に顔を向けた結は、瞬きもせず自分を見つめる切れ長の瞳と、ペロリと舌なめずりする赤い唇に息を飲んだ。
「練習試合の時に、結が作ってくれたアレだよ」
視線を絡めたまま、スローモーションのように伸びてくる長い指が、髪に深く絡みつく。
ジリと近づいてくる恋人を留めるように、結は震える手をたくましい胸に押し当てた。
春休み中の貴重なオフ。
はじめて黄瀬の部屋を訪れた結は、バクバクと鳴る鼓動が聞こえてしまわないかと、落ち着かなげに視線を泳がせた。
「テキトーに座って。DVDでも見るっスか?」と言われ、ベッドから離れた床に腰をおろしたのも束の間、隣に座った黄瀬が行動を開始するまで、それほど時間はかからなかった。
「ね、髪……ほどいていい?」
了解を得る前に、ひとつに結んだ髪をするりと解く器用な指が、思わせぶりに毛先を弄ぶ。
「ちょ、黄瀬さん」
「ん〜なんスか?」
髪をすくいとり、くちづけながら見上げてくる瞳に見え隠れする欲情の色に肌がゾクリと粟立つ。
「結の髪触んの、好きなんスよね。もっと触っりたいんスけど」
「近い、です……だ、誰か帰ってきたらどう、するんですか」
「今日はみんな遅いって聞いてるから大丈夫っスよ」
なーんて、ねという本音を飲みこむと、黄瀬は言葉につまる恋人の肩を自分の方へ引き寄せた。
「だ、大丈夫って、何が……」
額を合わせただけで羞恥で染まるやわらかな頬に親指を滑らせる。
「分かってるくせに。もうエッチもしたってのに、まだ恥ずかしいんスか?」
「そ、そそそーいうこと、言わないでくださいっ!」
ぷいとそっぽを向いた唇を追いかけて、重ねただけのキスに胸が熱くなる。
「ん」
「声、カワイ。ね……もっとキスしたい」
「っ、ふぁ」
やわらかい唇を何度も啄み、舌先でカタチをなぞるたびに、こぼれる甘い声が下半身をジクリと刺激する。
「なにその声、誘ってんの?」
「ん、ぅ……うん」
もう限界だ。
肯定とも否定とも取れる恋人の耳に口を寄せると、黄瀬はとっておきの声で囁いた。
「そろそろ結が欲しいんスけど……ダメ?」