第38章 マジバ
「ドコから始めますか?黄瀬さんの好きなとこからでいいですよ」
「え?マジっスか?」
「ナニ喜んでるんですか?勘違いしないように。勉強ですよ、勉強」
鼻の頭をピンと弾かれて、黄瀬は目を細めて「へへ」と笑った。
来週から始まる期末考査。
インターハイを目前に控え、一週間の部活禁止は正直もどかしいが、これも学生の大切な本分には違いない。
そして、勉強を教えてもらうという大義名分のもと、こうして彼女と過ごせる時間がなによりも嬉しくて。
早く座ってください、と机を叩いて着席を促す真面目な顔は、ベッドで見せるそれとはまるで別人。
「そのツレないとこがたまんないんスよね。オレに抱かれてる時はあんなイイ声で啼いてくれんのに」
「……っ」
絶句する結の身体を抱き上げて「ま、そのギャップも好きなんスけど」と机の上に座らせるのは、ペンを握るよりも容易くて楽しい。
「ちょっ……と、勉強しないなら帰りますよ。インハイ前に、赤点取って困るのは黄瀬さんなんですからね」
「ちゃんとヤるよ、勉強も。でも、その前にご褒美くんない?そしたらもっと頑張れるんだけどなぁ……ダメ?」
密着する身体を押し返そうとする腕を掴んで、小さな手のひらに唇を押し当てる。
「んっ」と漏れる声に手応えを感じながら、ほぼ同じ高さになった視線を絡めて「ダメっスか?」と二度目のオネダリ。
「そ、そんな目したって駄目ですからね。だいたい、ご褒美っていうのは終わってからの」
「ちょっとでいいんスけど。どーしてもダメ?」
上目遣いの瞳と、ヘの字に曲げた唇は、恋人を堕とす最終兵器。
成功率は100%ではないが。
「う……少し、なら」
「やった!オレ、頑張るっス!」
頑張るのは勉強ですからねと念を押す唇を、黄瀬は飲み込むように塞いだ。
「……ん」
「結、スキ」
机の上から教科書がバサリと落ちる音を合図に、黄瀬は結の後頭部を押さえ込むと、柔らかい唇を何度も食んだ。
「やわらかくて……甘いっスね」
「も、駄目、黄瀬さ……」
全身に広がる熱は、来るべき戦いに向けて滾る闘志か、それとも。
酸素を求めて一瞬開いた唇にすかさず舌をねじ込むと、黄瀬は身体の奥にくすぶりはじめた熱を伝染すように、甘い舌をキツく吸い上げた。
end