第37章 ホーム
肩をくすぐる吐息が、穏やかな寝息に変わるのにそれほど時間はかからなかった。
「結、寝たのか?」
情事の疲れにくわえ、時差の関係もあるのだろう。
髪を梳き、頬をなで、顎を持ち上げてキスをしても微動だにしない恋人の手を取ると、木吉は恭しくその薬指にくちづけた。
「結…………」
すぐに奥歯を噛みしめ、言葉の続きをぐっと飲み込む。
それは未来へと続く神聖な誓い。
大切な言葉だからこそ、彼女の目を見て伝えたい。
前を向く澄んだ瞳に、揺るぎないこの気持ちをいつか必ず伝えよう。
「俺の帰る場所は結の隣だけだ。今度会ったらこの手を……二度と離さないからな」
覚悟しておけよと鼻の頭にキスを落とすと、不機嫌そうに歪む顔に心の中でひっそりと笑う。
「……好きだ」
胸に抱きしめたぬくもりに、ようやく訪れる眠りの兆し。
微睡んでいく意識の中、小さな身体から伝わる鼓動を全身で感じながら、木吉は彼女の後を追いかけるように深い眠りに落ちていった。
end