第37章 ホーム
「お湯、ぬるくないか?」
「いえ……心はすでにサウナ状態なので、ご心配なく」
まだ半分も水が溜まってないバスタブの中に運ばれた後、あれよあれよという間に木吉の足の間に座らせられて。
浴槽の縁にゆったりと両腕を置いて「サウナか。日本に帰ったら、結とゆっくり温泉にでも行きたいよな」とのんきな声は相変わらずのマイペース。
「そうじゃなくて……うう、もういいです」
今は正直それどころではない。
少しでも密着する面積を減らそうと、木吉に向けた背中を丸めた結は、水面から出るゴツゴツとした膝の傷痕に目を細めた。
「痛み、はもうないんですよね」
「電話でも話したが、経過は思った以上に順調だぞ。ただ今のリハビリの担当医が厳しくてな、ちょっと泣きそうだ」
「その図体で何言ってるんですか。でも、よかったです……ホントに」
そっと触れた膝がパシャリと水面を揺らす。
と同時に腰に巻きつく腕に引き寄せられて、結は背中に感じる昂りにフリーズした。
それは、タオル越しでも十分に伝わる猛々しさ。
「ここ、触ってもいいか?」
トーンを落とした囁きが、髪を掻き分けてうなじに吸いつき、肩へとすべる気配に身をよじる。
「いい、ですけど……」
結には、無謀なトレーニングを課したせいで身体にメスを入れた経験があった。
木吉はそのことを知る数少ない人間だ。
右肩にうっすらと浮かぶ薄紅色のキズは、そんな過去の過ちと教訓──そして、誇りでもあった。
だが、肌に残る傷痕を恋人にはあまり見られたくない気持ちも否めない。
「最近、痛むことは?熱出したりとかは?」
「大丈夫、です。今は、木吉さんの方が心配……や、くすぐったい」
慈しむようにキズを舐める舌が、水音に混じって淫らな音を立てた。
「これは結の大事な……そして、俺にとっても大切な印だからな。もっと確かめさせてくれ」
そう言いながら、水の中で漂うタオルの隙間を縫うように、侵入した手がやわやわと膨らみを揉みほぐす。
「あ、やぁ」
「……やわらかいな」
大きな手に不釣り合いな、ささやかな胸が恥ずかしい。
だが、後ろから飽きることなく触れてくる手のひらの中で、自然と反応する先端を指先で摘まれて、結は手の甲を口に押し当てた。