第37章 ホーム
力を失って凭れかかる身体は、羽のように軽い。
木吉は唇を重ねたまま自分の方へ引き上げると、深く身を屈めて呼吸すら奪うようなくちづけを繰り返した。
「ふ、ぁ……」
口の端からこぼれる唾液を啜りながら、服の上からなでたうすい背中に、ゾクリと走る焦燥感。
「この服、よく似合ってる。脱がせるのが残念なくらいだ」
「ん……何、言って」
「しかし、ずっと世話になっていた親父さんのことを考えると、さすがに胸が痛むな」
背中のファスナーをちりちりと下ろす音に、わずかな罪悪感を抱きながらも、その指は止まらない。
「向こうに帰ったら」
「あ、っ……ん」
あらわになった背中のくぼみを、舐めるように這う指先に、ガクンと膝から崩れ落ちる身体を木吉はがしりと受け止めた。
「ちゃんと挨拶に行くから、今は」
しっとりと濡れた唇を優しく啄む──それはまるで誓いのくちづけ。
「結をただ、感じさせてくれないか」
「木吉……さん」
応えるように薄く開かれた唇に、木吉はもう一度キスを落とした。
肩を滑り、足元に音もなくこぼれる白いワンピースは、まるで穢れを知らぬ清らかな花。
誰も見たことのない花芯を暴くように、ひとつ、またひとつと散る花びらが、足元に絡みつく。
晒されていく素肌の眩しさに、木吉は目を細めた。
「綺麗だ」
「や……恥ずかし、い」
「大丈夫。俺しか見てない」
肌を隠そうとする腕ごと抱きしめた身体の脆さに、交差する感情。
(大事にしたい……でも、もう抑えられない)
疼く良心に眉を潜めながら、木吉は自分の胸に顔をうずめる頭をそっと撫でた。
「次、会う時は──」
「っ」
羞恥に染まる耳に、低く囁いたその言葉は、いつか交わしたふたりだけの約束。
ピクンと反応する彼女の髪に鼻先をうずめて、胸の中で縮こまる身体を抱く腕に力を込める。
「全部俺のものにするからって約束……忘れてないよな?」
「……い、一応」
「一応ってなんだ」
顔中に懲らしめるようなキスを浴びせながら、一糸纏わぬ姿になった彼女に素早くタオルを巻きつける。
それは、暴走寸前の自分の欲求を抑えるためのなけなしの理性。
「素直じゃないとこも、好きだけどな」
手早く脱ぎ捨てた自分の服を床に散らかしたまま、木吉は目の前の身体を軽々と抱き上げた。