第37章 ホーム
多少……いや、ずいぶんデコボコしてはいるが、恋人らしきふたりが交わす熱い抱擁を、目を逸らすでもなく囃し立てるでもなく通り過ぎる人の波。
さすが、ハグやキスは日常の挨拶というお国柄だ。
「結、悪いな。ちょっと降ろすぞ」
「あ!ご、ごめんなさい!膝が……」
抱き上げられた時と同じようにフワリと地面に降ろされた瞬間、額に押しつけられる柔らかな感触に、結は目を見開いた。
それが木吉の唇だと、時差のように少し遅れて気付いた顔が、真っ赤に染まる。
「きっ、木吉さん!?」
「いや、膝の問題じゃなくてだな。無性に結にキスしたくなって」
「な、なな何言って……っ!?」
「駄目、か?」
後頭部を引き寄せられて、ゆっくりと近づいてくる木吉の表情は、許可を求めているとは思えないオトコの顔。
そのまま重なる唇に強引さは少しも感じられないのに、その腕を振りほどくことは出来なかった。
「……ん」
「結……」
くちづけの合間に囁く声に、まるでそう指示されているかのように、結はうすく唇を開いた。
わずかな隙間に忍びこんでくる舌は、ここが空港であることも、ギャラリーがいることも一瞬で忘れさせてしまうように甘く、そして切なく胸を満たしていった。
身長差を少しでも埋めようと、精一杯背伸びをしたせいでバランスを崩した身体をこともなげに支えてくれるたくましい腕に身を預け、熱を帯びるキスに溺れてゆく。
(会いたかった……すごく)
濃厚なキスシーンをアレックスに接写されるまで、ふたりは会えなかった時間を埋めるように、お互いの熱を貪りあった。