第36章 アイテム
ようやくたどり着いた部屋にホッとひと息。
足首に引っ掛かったままの下着が、力の抜けた足から蕩けるように床に滑り落ちた。
ロールスクリーンを巻き上げた窓から、遠慮がちに射し込む月明かりが、ふたりを歓迎するように空間を満たす。
「結、よく我慢したね」
「も……りょーたの、馬鹿……早く、降ろして」
「ハイハイ、分かったっスよ」
深海のように静寂なベッドの上に、ドサリと組み敷かれた衝撃に、結は限界まで耐えていた疼きに身悶えた。
「あ!っんん」
「う、わ……ちょっ、んな締めつけたら、ヤバいって」
「ひゃっ」
ズルリと挿入を解いた黄瀬が、跨がったまま上着をもどかしげに脱ぎ捨てて、新しいゴムを装着する姿が闇の中で妖しく蠢く。
絶頂の途中で、中途半端に投げ出された身体が、次の熱を求めて収縮を繰り返し、反った爪先がベッドに小さな波を起こした。
「……涼、太」
「ん?」
用無しの袋を投げ捨てて、乱れた金髪を掻き上げる仕草に言葉が出ない。
「……あ、の」
「早く挿れて欲しいんスか?」
額に汗を浮かべて、足の間にゆっくりと沈んでくる身体を、結はそっと押し留めた。
「……待っ、て」
「ここまで来て、まだオレを焦らすつもり?」
ワルい猫っスね、と笑いながら頬を撫でる大きな手に、自分の手を重ねる。
「違う……そう、じゃなくて」
「ナ〜ニ?言いたいことがあるならちゃんと」
「……キス、して」
大きく見開かれた飴色の瞳が、熱に浮かされたようにとろりと蕩けた。
「……そーいえば、今日はまだだったね。欲しい?オレのキス」
「う、意地悪……」
「好きなコにはイジワルしたくなるんスよ。ね、欲しいならちゃんとオネダリしなきゃ」
焦らすように唇をなぞる親指を、結は舌先で小さく舐めた。
「今日は噛みつかないんスね」と口内に押し込まれる指に逆らえず、吸い上げて舌を絡ませると、さらに高まる欲求に細い腰がベッドの波間で揺れる。
「ん、ふぅ」
「腰、揺らして……結、エロすぎ」
口から引き抜いた自分の指を、ベロリと舐めるケモノの舌が、欲情の赤を浮かび上がらせて、思考を跡形もなく溶かしていく。
「お願い……涼太、が欲しい……の」