第33章 サイン
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ハッキリ言って、オレの寝起きは悪い。
痺れを切らした母親に布団を剥がされても、枕にしがみついて無言の抵抗。
『若者は朝が弱いんスよ!分かんないっしょ!』と彼女の逆鱗に触れた言葉は、二度と口にするつもりはなかった。
ピピピ──
唐突に朝を告げる電子音を一撃で黙らせる。
梅雨に入り、週間予報はほとんどが傘マーク。
朝だというのに薄暗い部屋と窓をうつ雨音が、今日の天気予報が的中したことを教えてくれていた。
「朝、か……」
胸をくすぐる寝息と、感覚のない左腕は、オレにとって最上級の幸せの証。
ただ、誘うように上下する胸は、健全なコーコーセイには目の毒でしかないんスよ、ったく。
そういえば、前にエッチしたのっていつだっけ?
ヤバい……早く起こそう。何か別のものが起きる前に。
「結、朝だよ」
髪を撫でてもぴくりともしない。
「結?」
肩を揺すったら手をはたかれた……て、寝てるし!
こ〜らと布団を引っ剥がしたことを、オレはすぐに後悔した。
捲れあがったパジャマ代わりのTシャツから、チラリと覗く腰のラインがなんとも悩ましい。
「寝て、るんスか?」
白い肌を、確かめるように滑らせた指が自制心を失うのは想定内……いや、むしろ確信犯。
おじゃましま〜すと一応挨拶をして、裾から滑りこませた手を背中に這わせると、吸い付くような肌にくらり。
「いいかげん起きないと……」
ゆっくりと仰向けにして、覆い被さったオレの下半身がすっかり元気になっているのは、単なる朝の生理現象だ。
多分。
首筋に唇を這わせ、左手で膝裏から太股を撫でながら、たどり着いた双丘を味わう。
「……ん」と甘い声に気をよくして、シャツの下の無防備な膨らみをやわやわと揉みしだく。
どこもかしこも、どーしてこんな柔らかいんスかね。
あ、固くなってきた。
「黄瀬さ……?」
「起きたっスか?」
な……何してるんですかと、寝起きの顔をほんのり赤く染めて、見上げてくる瞳にニコリと笑う。
「何って、おはようの挨拶っスよ」
抗議の声が上がる前に封じこめた唇が、オレの舌に応えるまであと数秒。
「ん……」
戸惑うように首に巻きつく細い腕がそのサイン。
オレは遠慮なく、朝のご馳走を口いっぱいに頬張った。
end