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【黒バス】今夜もアイシテル

第32章 アンダー・ザ・シー



よりにもよって、秀徳のふたりに見られていたとも知らず、黄瀬は雨のせいでぺしゃんこになった髪をグシャグシャとかき回した。

「こんな早く降ってくるとは思わなかったな〜。でもオレ、雨は嫌いじゃないんスよ」

雨の日の特典は、外周がないことと、こうやって同じ傘の下で寄り添っていられること。

(結と一緒なら、どんな季節も好きっスけどね)

今日は雨が降るからと持たされた傘を、わざと学校に置いてきたことは彼女にはナイショだ。

そして、鬱陶しい梅雨を吹き飛ばしてくれる年一回のイベントは、もう目の前。

自然に弾む足許が、水溜まりをぴしゃりと乱す。

「雨、好きでしたっけ?」

「そんな心配しなくても、結が一番好きっスよ」

「し、心配なんて……」と口ごもる唇は、相も変わらず嘘が下手だ。

誘惑するような口紅は、淡い珊瑚色。

後でたっぷり味わせてもらうっスよと秘かに誓うと、黄瀬は照れる恋人に身体を寄せた。

「どーしたんスか?そんなニヤニヤしちゃって」

「え……っと、今日、病院に機関銃みたいにお喋りする患者さんが来てたのを思い出してただけです。雨、強くなってきましたね」

わざとらしく話を逸らす彼女が濡れないよう、静かに傘を傾ける。

相合傘を伝う雨粒が自分の肩を塗らすのも構わずに、ふと見上げた視界を覆うのは、青空のかわりに広がる海常のシンボルカラー。

それは、まるで海の底からみた景色のように眩しかった。

新調したと言っていたこの傘を選んだ時の、彼女の心境を自分に都合よく想像して、黄瀬はクシャリと相好を崩した。

「黄瀬さんこそ……ニヤけちゃって」

「へへ。お揃いっスね」

「ム」と反撃を企てる唇を、少しつまみ食い出来るのも雨の日ならではの特権だ。

「結、ちょっとこっち向いて?」

パタパタと音を鳴らす傘を、周囲の視線から遮るように傾けると、黄瀬はゆっくりとその身を屈めた。





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