第30章 トリガー
髪を梳く優しい指が心地いい。
ベッドのヘッドボードにもたれる黄瀬の胸に抱かれながら、結はふたたび襲ってくる眠気に目をこすった。
「いいよ。ちゃんと起こしてあげるから目、瞑って」
「……うん」
身体をつつむしなやかな腕。
それは、日々のトレーニングによって培われた筋肉をまといながらも、不思議な色気を放っていた。
「あの、ね」
「ん?この体勢じゃ寝づらいっスか?」
形のいい唇からこぼれる優しい声も
たくましい腕も、略奪者のような鋭い瞳さえも
すべて自分だけのモノであって欲しい
その想いは、相手を好きになればなるほど胸に湧きあがる、苦しくて、甘美な独占欲。
「今日は、その……ごめんなさい。私、無神経でしたよね」
「へ?ちょ、ちょっと!なんで結が謝ってんの?意味わかんないっスよ!」
「私だって他のヒトが涼太に触れるのはスゴく嫌です。だから……」
ゴメンナサイと小さくつぶやいた結は、頬に添えられる大きな手に導かれるまま、うつむいた顔をおずおずと上げた。
「結はオレをどこまで甘やかすつもりなんスか?オレ、独占欲むきだしにして、あんな乱暴に抱いたのに」
「い、いつもは困ります……けど」
「けど?」
「好きな人からあんなふうに……も、求められて、嬉しくないわけ……ありません」
丸くなった瞳から視線を逸らせた瞬間、ぽすんと再びベッドに押し倒されて、結は目の前に迫る顔を唖然と見つめた。
「き、黄瀬さん?」
「な~んかまだ、涼太って呼ばれたい気分かも。てことで延長戦、イっちゃってもい?」
「はひ?」
「なんスか。その色気のない返事」
クスクスと笑う息が前髪を揺らす。
額に何度も落とされるキスと、今度は優しく抱かせてと甘い吐息が近づく気配を拒めるはずもなく。
「お手柔らかに……お願いします。りょ、涼太サン」
「ハハ。了解っス」
首に光る真新しい鎖に気づくのはもう少し後のこと。
結は腕を広げて、優しく触れてくる唇を全身で受け入れた。
「アレ?てことは、時々ならああいうエッチもOKってことスか?」
「!?」
「イデデデっ!結、ギブギブ!」
end