第26章 エンディング
「っ、ハ!」
身体がふわりと墜ちるような感覚に、結は大きく目を開けた。
だが、あまりにも生々しい感覚に、身体は硬直したままだ。
(どこまでが現実?)
混乱する頭を整理しながら、交換済みらしいシーツの上で、おそるおそる着衣に触れる。
さらりとしたユニフォームではなく、身体に馴染む自分の部屋着に、結はホッと安堵の息を吐いた。
まだ少し早い呼吸と、一向におさまらない鼓動は、久しぶりに出してしまった熱のせいか、それとも記憶に残る夢のせいか。
(私、なんて夢を……)
羞恥で燃える頬を押さえようとした結は、ピクリとも動かない左手にのろのろと顔を向けた。
「りょ……」
ベッドに頭を預け、おだかやな寝息を立てるその顔は、夢の中の人物と同じとは思えないほど無邪気で、そして美しかった。
夕陽を浴びて輝くオレンジ色の髪に、伸ばした指先でそっと触れる。
全身を駆けめぐるビリリとした痛みは、まさに王子様に恋したお伽噺のヒロインのよう。
「……すき」
それは、自然に口からこぼれた言葉だった。
と同時に、繋がれた大きな手がピクリと震え、形のいい唇が耐えきれないというふうにジワジワと歪んだ。
「っ、それは反則です!」
ゆっくりと開いた上目遣いの瞳が、嬉々とした色を湛えながら優しく微笑む。
「ハハ、ごめん。でも、嬉し……オレも好きっスよ」
いたずらっ子のような笑顔も、甘い囁きも、怒りに満ちた表情でさえも。
激情をほとばしらせる熱いカラダも、全てがこんなにも愛しいなんて。
「どんな夢見てたんスか?熱はどーかな?顔はまだ少し赤いけど」
狸寝入りを責めるタイミングを逸したまま、結は夢の内容を思い出して、火照る顔をさらに赤く染めた。
(しばらくユニフォームは直視できそうにない、かも)
額に触れる冷たい手に身をゆだね、心配そうな恋人に微笑みを返す。
「気持ちい……」
「も〜またそんな顔して。そーいえばさ、前にオレが熱出した時は邪魔が入ったけど、今度はどうなるっスかね」
「試して……みます?」
一瞬丸くなった瞳が、長いまつ毛の影を落としながら近づいてくる。
「じゃ、遠慮なく」
ゴツゴツとした長い指に自らの指を絡ませながら、結はキスの結末に思いを馳せた。
end