第23章 ガーディアン
「ところでさ……」
いつになく大胆に乱れたせいか、グッタリと腕枕に頭を預ける結の髪を、繰り返し撫でていた指がぴたりと止まる。
「なんでオレじゃなくて、笠松センパイに電話したんスか?」
「……え」
「オレ、頼りになんない?」
ツンと口を尖らせるその表情は、完全に拗ねた子供。
ベッドの上で、熱情を迸らせていた妖艶な顔とはまったくの別人だ。
「そ、そんなことありません。ただ……」
「ただ、何?」
もし最悪の事態が待ち受けていたとしたら、黄瀬は自分を責めて苦しむだろう。
だから、本当は知られたくなかった。
「もしかして、オレのこと心配してくれた?」
「うっ」
「結はオレの彼女でしょ?もっと甘えたり頼ったり、ワガママ言ったらいいんだって」
図星を指されて背中を向けた肩に、絡みつく長い腕と、顔を肩口に埋めて擦りつけてくる鼻がくすぐったい。
「オレに……オレだけに守らせてよ」
「……黄瀬さ、ん」
切なくて、愛しくて、泣いてしまいそうだ。
自分のものとは全く違う、筋肉質のたくましくて優しい腕を、結は自分の胸に深く抱き寄せた。
『なんでアンタみたいな女が、リョータの隣に……!』
悲痛な叫びが胸をチクリと刺す。
そんなことは自分が一番よく分かっている。
(それでも……この腕を離したくない)
周りの好奇な目も、揶揄する声も、彼の隣にいられるのならば構わない。
怖いのはただひとつ──彼を失うことだけだ。
「……ごめん、なさい」
「だから、結が謝ることないんだってば。怖かったよね……ホントにごめん」
耳を揺らす切ない声が、心臓を甘く震わせる。
「黄瀬さんが謝ることもない、と思うんですけど?」
「ハハ、そーっスね。でも……」と後ろから耳朶をパクりと含んだ口の中、少し強く歯をたてられて、結は握りしめていた腕に軽く爪を立てた。
「ン、っあ」
「何かあったからって、オレが結を手離すとでも思ってんの?」
「っ」
その言葉があればもう何もいらない。
他には何も望まない。