第19章 カウントダウン
「そんな可愛い顔しちゃって……もしかしてオレ、誘惑されてるんスかね」
気配を消して忍びこむ指に首の後ろをスルリと撫でられて、結は猫みたいに飛びはねた。
「ひゃっ、ちょ……黄瀬さん、手!」
「眠気覚ましに効くおまじない、する?」
抗議の目を向けたつもりが、ジワジワと距離を詰めてくる意味深な視線に囚われて、結は言葉をなくして固まった。
流れるような弧を描く睫毛が瞬きするたびに、その綺麗な瞳に写りこむのは、彼に溺れた自分の顔。
「う、ぁ……」
「んなトロけた顔されたらさ、オレの鉄壁の理性がもたないんスけど」
「な、何が鉄壁ですか。ペラッペラなくせに……」
「ハハ、さすが結。オレのことは何でも知ってるんスね」
髪を梳いていた指先で耳朶を弾くように弄られて、さっきまで感じていた眠気が一瞬で吹き飛ぶ。
代わりに全身を襲うのは、猛烈な喉の渇きと、糖分不足の警告を鳴らす脳内シグナル。
「そんなこと……ない。もっと、もっと教えて。涼太のコト、全部知りたい。独り占めしたい」
「!」
「だから、おまじない……して?」
セーターの裾を摘もうと伸ばした手は、長くて筋ばった指先にあっという間に絡めとられていた。
10秒前!と叫ぶテレビの喧騒は、ふたりの耳には届かない。
胸の奥に潜む熱に浮かされるように、唇から好きの気持ちがこぼれ落ちる。
「……好き」
「も、マジ降参……」と溜め息混じりの吐息が、前髪を掻き分けて額を甘く掠める。
「いいっスよ。結だけの特別なおまじない、たっぷりと」
頬を包む手に引き寄せられるまま、結は優しい熱を受け入れるため、そっと瞼を閉じた。
5. 4. 3. 2. 1 ……
Happy New Year!
end