第17章 ハングリー?
体育館の入り口に、蟻のようにたかる女子の群れ。
土曜の午前授業を終えた生徒達の黄色い声に、部活の音は完全に書き消されていた。
「リョーターっ!!」
「きゃああぁー!カッコいいー!」
聞きなれたはずの声援が、結の耳をざらりと撫でる。
明日は練習試合のため他校へ遠征。
だから、せめて今日くらいはと必死に自分の課題を終わらせて駆けつけたのに、愛しい人の姿を見ることすら簡単には叶わないのが現実だ。
(まぁ、仕方ない……よね)
周りの人間を惹きつけてやまない魅力は、バスケと同じ天性の才能。
街を一緒に歩いているとあらためて感じる、熱い視線と嫉妬の眼差し。
今、自分はどんな顔をしているのだろう。
醜い感情に支配されたくない……そう思うのに、ヒリつく喉の渇きは一向に治まらなかった。
ピーーーー!!
休憩時間の合図とともに、生き物のようにうねりはじめるバリケード。
そして、キャー!という悲鳴にも似た声に紛れて「ちょ、ちょっとごめん」と聞こえるのは間違いない、彼の声。
差し入れを渡そうとする女子達をあしらいながら、キョロキョロと辺りを見回す顔が、自分の姿を見つけてくしゃりと崩れる。
胸のモヤモヤを吹き飛ばす幸せな瞬間だ。
「やっぱり!そろそろ来るんじゃないかと……」
瞬間、周りから立ちのぼる不満そうな視線に、黄瀬は駆け寄ろうとした足を咄嗟に止めた。
「黄瀬!水原来て(る)んなら、早く来(る)よう言ってく(れ)!」
「了解っス!結、早川センパイが呼んでるっスよ!」
そう手招きしたあと「ちょっと通してあげて」と道を作るように広げた腕に、きゃあきゃあと色めき立つ壁。
結は「すいません」と下を向きながら、意外にも洞察力に優れた早川の機転に助けられる形で、体育館の中に足を踏み入れた。
「名前で呼ばれてるとか、マジ何様?てか、バスケ部には女子マネいないんじゃなかった?」
「なんかさ、卒業生が手伝ってるって聞いたことあるけど」
「まさかの黄瀬クン狙い?うっわ、ウザ〜」
無遠慮な視線や中傷の声に、黄瀬の顔色が一瞬で変わる。
「っ、彼女は……!」「黄瀬さん」
理性的な声に言葉の続きをグッと飲み込むと、黄瀬はせめてもの抗議の意味を込めるように、結の背中に手を回した。