第13章 テイスト
「あら?」
チャラさには定評があった不肖の息子。
(このコをここまで本気にさせるなんて……なかなか)
「オレ、今までテキトーに遊んでた事は否定しないよ。ほら、なんせこのルックスだし」
タンクトップから伸びる引き締まった腕で、ペットボトルの水を喉に流し込む姿は、確かに写真集の1ページを飾ってもおかしくない。
「ま、私の息子だからトーゼンね」
胸を張る母親にクスリと笑みを返すと、黄瀬は濡れた口許を手の甲で拭った。
「でも、彼女は……」
──結だけは違う
「……へぇ」
身長だけ伸びたものの、中身はまだまだ子供だと思っていた。
一人前のオトコの顔をした息子に、感慨深さを覚えると同時に、胸を掠めるかすかな寂寥感は、母親として避けられない試練なのかもしれない。
「家に連れてくんのも、結ちゃんが初めてだっけ?女の子は単なるデザートだって顔してたアンタが」
「ぐっ」
さすがに、母親というものはちゃんと見ているものだ。
「ま、まぁ……結はデザートっていうより、どっちかっていうと……スルメ?」
「珍味系なの?ゆるキャラかと思ってたわ」
「や、結は全然ゆるくないから」
「アソコの話じゃないわよ」
「ゴフッ!わ、分かってるって!も、勘弁して……」
母親との不毛な会話を早々に切り上げると、黄瀬は階段を駆け上がった。
「あ~ぁ。結、怒るかな……」
階下で待つ母親と顔を合わせた時の、羞恥に染まる表情を想像しながらパチリと点けた机のスタンドが、部屋に小さな明かりをもたらす。
さっきと変わらぬ体勢ですやすやと眠る恋人の顔を、黄瀬はそっと覗き込んだ。
その瞳に早く自分を映してほしい。
「結。起きて」
ベッドに投げ出された小さな手を取り、ゆるゆると指と指を絡めていく。
会えば会うだけスキになる
抱けば抱くほど溺れていく
(こんな珍味、手離すなんて無理だし)
やっぱ怒られるかも……と覚悟を決めた時、「くしゅん」と可愛く顔を歪めた彼女の目がうっすらと開き始める。
自分の願いはもうすぐ叶う。
黄瀬は極上の笑みを浮かべながら、その瞬間を待った。
end