第2章 キノコ
「腹が減ったな……オイ、結。なんか食わせろ」
練習試合の後、そう騒ぎ出した青峰に根負けした結の家には、なんともファンタジーなメンバーが集まっていた。
桐皇からは青峰と桜井と桃井、海常からは笠松と森山と黄瀬。
相談の結果、メニューはハンバーグに決定したものの、ついでに家族の分も、と十人分の分量のヘビーさに、結は悪戦苦闘していた。
「すいません!ボクが捏ねれば良かったですね!ホントすいませんっ!」
「いえ、家族の分もと欲張ったのは私ですから」
「気が利かなくてホントにすいません!」
つけあわせのポテトサラダを手際よく作りながら、謝罪の言葉を繰り返す桜井の様子はまさに“あやまりキノコ”。
日向から聞いていた話を思い出し、結は噴き出しそうになるのを必死でこらえた。
「大丈夫ですよ。もう手が汚れちゃってますし、このまま頑張りますね」
懲りもせずスイマセンを連呼する桜井の背後から、ひょいと顔を出したのは、両校のエース青峰と黄瀬だった。
「おつかれ~。何か手伝うことあるっスか?」
「おい、良。ハンバーグはいつ食えんだ?」
「あああ青峰さん!すいませんっ!」
「キノコさんが謝ることはないんですよ」
「キ……?す、すいません」
「キノコって何スか?」
キノコネタに反応する恋人に、今は沈黙をうながすように目配せすると、「ん?」と首を傾ける仕草に、不覚にも心臓が騒ぎだす。
体育館で密かに交わしたキスの余韻が、まだ残っているのだろうか。
「あ、あ、青峰さんはさっき肉まん食べてませんでしたっけ?」
「あんなもん、食ったうちに入るかっての」
「ヒドっ!人の奢りだと思って五個も食べたくせに!」
うわずる声をかき消してくれた事にホッとしつつ、はじまった喧嘩はいつもと同じ。
そして、そんな青峰を制御出来るのは。
「あれ、桃井さんは?」
「桃っちはリビングで黒子っちと電話中っスよ」
軽くウインクしてみせる黄瀬に、結は動揺を抑えながら小さく笑みを返した。
「作戦、成功したんですね」
勿論それは『手伝うと言ってきかない桃井をキッチンから遠ざける作戦』のこと。
(皆の胃袋を守るため……黒子さん、ごめんなさい!)
スケープゴートとなった黒子に、結は心の中で頭を下げた。