第9章 ラブラドライトの叡智
実際極限状態だったアレスは、バルレルに促されてベッドへと倒れ込む。
「…手、握っても良い?」
「ガキかよ」
図に乗るんじゃねぇと、その手を跳ね退けた。
「…そうだよね、ごめん」
少しだけ寂しそうなアレスだったが、すぐさま笑顔を作るとまぶたを閉じる。
「また後で起こして」
「おう」
「…置いていかないでね」
ルヴァイドよりも暗い紅の瞳で、バルレルはアレスの顔をまじまじと見下ろす。
不安と焦燥が入り混じる複雑なオーラが滲み出て、この数日でだいぶやつれたんじゃないだろうか。
「…そばに居てやるから、さっさと寝て体力を回復しやがれ」
足手まといになるようだったら本当に置いて行くぞ。
「ふふ、バルレルのそういう所嫌いじゃないわ」
くすりと笑った後、数秒で静かな寝息を立て始める。
バルレルはやれやれと肩を落とすと、うざったそうにルヴァイドの髪を掻き上げた。
「……………」
血が固まり絡みつく長髪に、イライラが募る。切り落としてやろうと刃物を探せば、医務所には包帯を切る細身のハサミしかなかった。