第9章 ラブラドライトの叡智
「…貴様にくれてやる物など無いが」
ギリギリと首を締められて苦悶を浮かべるルヴァイドが、にやりと笑った。バルレルの手首を掴んで力を加える。
「この状況を打破するために、利用させて貰おう」
そして喉元から引き離すと、相手の薄ら笑いを睨みつけて吐き捨てた。
『──ケッ、大したモンだぜ』
今の今まで絶命しかかっていた魂が、逆に悪魔を取り込もうとしている。人間の身の程を弁えない強欲には、呆れを通り越して笑いさえこみ上げてくる。
『テメェの体は、この魔公子が預かってやらぁ』
バルレルが嘲笑を響かせた瞬間、ルヴァイドの魂に激流が流れ込んできた。熱く、破裂してしまいそうな程強い血潮に全神経が奮い立つ。
そして、視界が開けた。
「『──アレスッ!!』」
飛び込んできたのは、イオスの腕の中でグッタリとするアレスの姿。バルレルとルヴァイドの声が一つに混じり合い、失血した血の代わりに魔力を迸らせて駆け出す。