第8章 セレスタイトの歌声
それを分かっていて無言を貫くのは、彼は心底から人間に対して関心が無いのである──あの鉱物鑑定士を除いて。
(あいつ、どうしてっかな…)
思い浮かぶは、泣きながら屋敷を後にしたアレスの名残惜しそうな顔。
仲間の為に身を挺して尽くしてきたと言うのに、仲間はアレスを受け入れなかった。──その時のアレスの心に広がった闇と言ったら──
(ありゃ随分と年季のいった孤独感だったな)
バルレルの舌を唸らせる、味わい深い負の感情。
悪魔のバルレルは、最初からアレスの深層心理を見抜いていた。
人の良さそうな顔をして、誰彼の世話を焼きたがるアレス。本当の所は、そうして寄ってきた相手に自らの孤独感を癒していたに違いない。
(ニンゲンって奴ぁつくづく…)
笑顔に隠された飢餓感がバルレルに甘い蜜をもたらしていたからこそ、バルレルはアレスを庇護しようとしたのだ。
(救われる事なんて、ねぇんだよ)
見かけとは比例しない、達観した目で召喚主越しに浮かぶアレスに胸中で呟いた。
「──バルレル?」