第8章 セレスタイトの歌声
「それはそれとして…捕虜のお嬢さんは、随分と自由に動き回れるのですね」
ゼルフィルド越しに掛けられたその声は、侮蔑する様に嘲り笑っていた。
今現在捕虜という立場である自分が、こうして陣営内を自由に行き来しているのは立場を矛盾している──。
怪しまれていると直感したアレスは、どうこの場をしのぐかと早鐘を打つ胸に手を当てた。
その指先に硬い物が触れる。
それはバルレルの血の結晶。
魔力を帯同させているそれに針金を巻き付け、革紐で作った簡易のチョーカー。
バルレルからの餞別の品が、ここにきて存在感を示すように脈打った気がした。
(バルレルは悪魔の気配を感じたら、どうするように言った…?)
思い出そうとするが思い出せない。
きちんと小悪魔の話を聞いておけば良かったと酷く後悔するのは、近付く銀髪の男が醸し出す悪魔的な雰囲気のせいに他ならなかった。