第8章 セレスタイトの歌声
こんなことを言っては何だが、聖女を拉致して本国に連れ帰ろうという使命感は殆ど感じられない。
むしろ気乗りしない任務に辟易し、状況を変えられない閉塞感のようなものがこの隊に満ちていた。
与えられた任務の果てには、何が得られるのだろう。
わからないが、凄く──嫌な予感がする。
アレスは不安感を拭うかのように、小さな音を口から発した。
何かの呪文のような、しかし、意味のない言葉の羅列が紡ぐメロディ。
ひとりで不安な時は、決まってこの歌を歌っていた。
──そうすれば、石が声に共鳴して私を励ましてくれるような気がして。
口ずさみなざら、アレスは空を見上げる。
今日の空の色はセレスタイトのように優しい青色をしていた。
「どうか、石の加護がありますように──」
手を合わせて祈る。
木々の葉掠れしか聞こえていなかったアレスの耳に、人に踏まれた草の音が聞こえた。
「──っ!?」
唐突に現れた人の気配に、アレスは慌てて振り返る。
その動作に、弾かれたようにして起動したのはゼルフィルド。彼は近付く人物からアレスを庇うように立ちはだかって、その人物を威圧した。