第8章 セレスタイトの歌声
そういえばと、助けてもらったお礼を言い忘れていた事を思い出したアレスは、佇む黒の機体にゆっくりと近付いた。
「ゼルフィルド?」
隣に立ち、その大きな体を見上げる。反応がない。
アレスは遠慮がちに無機質な装甲に耳を当てると、内部から駆動音が聞こえた。
「故障の類じゃなさそうね…スリープモードなのかしら」
機界の技術に詳しくないアレスは、適当に理解するとその場に座り込んだ。
一度は対立したこの機械兵士も、そばに居て見れば案外人間くさい。
アレスは、ゼルフィルドに窮地を助けられた事もあって、この旅団の中ではルヴァイドとイオスの次にこの機械兵士を信用していた。
巨体が作る影に隠れて、アレスは無意味に足元の草を毟る。
「みんな…人を殺すこと、恐くないのかな…」
ゼルフィルドに限らず、この旅団員は任務で命を奪うやり取りをしたことがあるのだろう。
雪に包まれたデグレアの美しさを語った者、
郷土料理を自慢げに語った者、
故郷で帰りを待つ家族の話を懐かしむ者。
まだ少しの時間しか旅団員とは触れ合っていないが、誰もが気立てが良く穏やかだった。