第7章 クリソプレーズの囁き
「…こっちは終わったぞ。…アレス?」
イオスがアレスの髪を一つに束ねてやった所で、彼女の肩が震えている事に気がついた。
手を握りしめ、泣くのを必死で堪えているようだ。
何故涙を堪えようとするのだろう。
我慢しないで泣けば良いのに……と、アレスの頬に手をやろうとして、イオスは思いとどまった。
(それは僕の役目じゃない)
霊界の聖母を安定して具現化するために、魔力と集中力をサモナイト石に注いでいるルヴァイド。
めったに使役しない召喚術を、アレスの為に精一杯行使している。
団員にさえ施した事がないのに、ぱっとやってきたアレスに対してここまでされると、部下として複雑な気分だ。
手を止めたイオスに、アレスは俯いていた顔を上げてゆっくりと振り向いた。
「ありがとね」
少しだけ翳りのある笑顔で微笑む。
イオスもめったに見せない穏やかな表情で応えた。
「それでは僕はこれで」
「ご苦労だったな」