第7章 クリソプレーズの囁き
「…入るぞ」
至極遠慮がちに入ってきたイオスに、アレスは苦笑した。
「何もそこまで気を遣わなくても…」
事務机の椅子に背を預けて力無く笑っているアレス。
体は自分で吹き上げられたようで、イオスの持ってきた替えの服に身を包んでいた。
「この服って、イオスの服?」
「…そうだけど?」
不思議そうに首を捻るイオスに、細身のイオスの服が入って良かったと熱に浮かされた顔でアレスは笑った。
「…さっさと済ませるぞ」
「…お願いします」
イオスは椅子の背後に立ち、泥の付いたアレスの髪に触れた。
タオルで全体の汚れを落とし、手で絡まった髪と泥を解していく。その優しい手付きに、アレスの口から長い吐息が漏れた。
体の芯から火照り、夢か現か分からない状況からようやく現実味を取り戻してきた。
黙々と手を動かすイオスをよそに、アレスは我が身に起こった現象に頭を悩ませる。