第7章 クリソプレーズの囁き
汚れ、引きちぎられていた衣服に悲惨な事実を想定していたが、予想が裏切られてようやく安堵したルヴァイド。
怒りに血がたぎって熱くなった頭を冷やすように額に手を当て、そのまま前髪を描き上げた。
「…それで、アレスは何故単独行動をしていたのだ?」
それも雨の中、夜の山で独り何をしていたのか。
近くに聖女一行がいるのか?
「数名ノ人間ガイレバ、我ガせんさーガ人気ヲ感知スル…アノ場ニ聖女ノ気配ハナカッタ」
「そうか」
アレスが何故危険を冒してまで独りで行動していたのか。
これは本人に直接訊かねばなるまいとルヴァイドがテントを振り返れば、中から弱々しいアレスの声が聞こえた。
「……イオス、いる?」
指名されて、ぎょっと目を開いたイオス。
何故この状況下で僕を呼ぶんだと、ひとり冷や汗を流しているイオスの気も知らず、アレスはぼんやりと言葉を続けた。
「着替えたんだけど…髪の毛の汚れを取るのが、つらいから……手伝って欲しいの」
なるほど、そこまでの体力も残っていないのか。
イオスは視線だけで上司の指示を仰ぐ。
「…手伝ってやれ」
ルヴァイドはため息混じりに言葉を吐いた。