第5章 ラリマーの調和
「話は終いだ。お前は負傷した兵の様子を見てこい。近く出兵する」
釈然としない様子のイオスの頭に、ポンと手のひらを置いたルヴァイド。
そして掠れるほどの小さな声で言った。
「…感謝するぞ、イオス」
上司の口から出た思わぬ言葉に、イオスは血の気が引いた気がした。
かつて今まで、目の前の男が感謝の意を述べた事があっただろうか。
いや、ない。
これは異常事態だ。
「す、すぐに容体を確認して参ります!」
敬礼をして逃げるように去って行った部下の背中に、ルヴァイドはほんの少しだけ笑った。
天幕の中、昨晩アレスが寝たベッドに腰掛けると、懐から丸石を取り出す。
「不思議なものだ」
アレスから貰った緑色の小さな石。触れているだけで彼女の気配を感じて、酷く落ち着く。