第5章 夜景
そんな私の前を歩いていた彼の背中が
突然に止まった
そしてにっこりと笑うと
大倉「これを見せたかったん」
そう言って見せられたのは
夕焼けから夜景に変わる街並みだった
山の上から見る景色は幻想的で
静かに闇に呑み込まれる街に
明かりが静かに灯っていった
私は声もでずに見ていた
大倉「これは、ここにしか見られへんねんで」
彼は嬉しそうに私に言った
「綺麗ですね....」
大倉「やっと素直になった」
私は彼の言葉に驚きながら彼を見た
しかし
彼は惚けながら街を見ていた
「いつもここに?」
大倉「元気になりたい時は」
「そうなんですか」
その言葉に彼が元気ないと思った
大倉「なぁ、元気になった?」
私は驚いた
大倉「元気ないやろ、いつも?」
私はその言葉に驚いたが
冷たく言った
「私は、それでいいので」
大倉「いいんやったら
そんな顔はしてないやろ?」
私は、何も言えずに彼の顔を見ていた
大倉「うん?」
「べつに....」
私は、思わず言葉を飲み込んだ
大倉「べつにか....」
それから、
二人で何も言わずに夜景を見続けていた
どちらも話すことの出来ない
緊張感を感じながら
私は彼の言葉の重みと
過去の思い出に胸を痛めながら
今の自分と戦っていたのだ