第11章 飛び出る災難
国境沿いの警備に出てかれこれ二週間、治安の行き届かないその周辺は深い山中だ。隣国に近いところ程緑が濃くなる。砂漠の国に生きる目には少し色彩が煩いくらいだ。
「隊長、不審な遺骸は見当たりませんね」
「まあな」
「矢張り流行病の類いだったのでは?鎮静化したんですよ」
「そりゃ俺達が判断する事じゃねえじゃん?原因がはっきりするまで警備は止められねえよ」
五日ほど前に奇態な遺骸を発見したこの場所は、染み込んで流れ去らぬ血痕でまだ地面が黒々としている。
進展のない見廻りに警備の隊員も痺れを切らせ始めていた。
「上から指示が出るまでは仕方ねえじゃん。まァ今回の警備も今日で終わり、里に戻ったら手当てと休暇が出るからよ、帰ったらせいぜい楽しもうじゃん?」
隊を束ねる隊長が年若いので、隊員も血の気が多い若者ばかり、カンクロウは苦笑いして隈取りのある顔をしかめた。
"気遣いが裏目に出るってなこの事じゃん。我愛羅のヤツ、余計な気を回しやがって反ってメンドくせえんだよ。たく"
国境付近で異常な失血死体が発見されるようになって三ヶ月ばかり、砂の里のラボでは回収された遺体の検死が続いているが、原因は解明されていない。
半月サイクルの警備が交替で行われるようになってこれが二回目の任務だが、正直カンクロウ自身この仕事に飽いて来ていた。
"何もねえじゃん。飽きんだよ"
前回の警備のときはまだ良かった。栗鼠みたいな女が突然襲いかかって来るというイベントがあったからだ。異常な早口の小声で口汚く罵って、カンクロウの繰る黒蟻の頸の付け根にバカに的確な蹴りをくれて関節を外すと、唐突にポカッと消えた。
脈絡のなさと消え方から察するに、あれは幽霊だったのだろう。
幽霊の仕業にしては黒蟻はしっかり壊れされて、修理に半日掛かりきりになったが、まあいい。暇潰しになった。何ならまた出て来てもいい。正午には警備から解かれるが、あと数時間が苦痛だ。
「はあ、つまんねえじゃん」
思わず口をついて出たその瞬間、目の前に二つの人影が縺れながら飛び出して来た。
「メンドくせぇメンドくせぇしつけぇよ、うるせえな。ちょっと牡蠣殻さんに似てッからって調子こいてんじゃねえぞ、ガキ」
「うるせえのはそっちだっての。だから誰よ、牡蠣殻って?ずっと文句ばっか言いやがって。大体言葉が汚え!汚え言葉は聞き飽きた!いっそ凄え」