第9章 【VIP】吸血鬼の部屋
「おかえりレディ、今日はいつも私の部屋に帰ってきてくれる君にサプライズを用意したよ?」
紳士の言葉にミュラーは眉をひそめた。
一一何だか嫌な予感がする。
「申し訳ないが品が遅れていてね、少し私と話でもしないか?」
珍しくヴィアトリクス手づから茶を入れてくれる。
「レディは砂糖は二つだね」
琥珀色の異国の茶に部屋の主が砂糖を沈める。
それをスプーンでステアして彼は茶を差し出した。
「何を企んでいるの?」
目の前で湯気を立てる茶に眉を顰めミュラー。
まさかこの茶に何かが?!
「企んでいるなんて……」
彼は云い同じポットから注いだ茶に口をつけた。
つまり、茶ではない。
「ならいつものをしましょう」
襟元のリボンに手をかける彼女を『まあまあ』と手を振って宥めてヴィアトリクス。
「まだ夜は長いよレディ。それにゆっくりレディと話した事がなかったなぁと思ってね……」
彼はその重ねてきた年を示すような優雅な動作でティーカップを傾ける。
「私はあなたと話すことなんてないのだけど」
ツンと云い、渋々といった動作で彼女はカップに口を付けた。
「それは早く褥に行きたいというお誘いかな?」
ここに来る女達が揃って相合を崩すその流し目もミュラーには眉間の皺を増やす効果しかない。