第21章 砂の国
「だ……大丈夫ですか?」
目頭を押さえたまま天を仰ぎ動かないスモーカーに、心配になった兵が声をかけてみる
怒鳴られるかと身を硬くしたまま動かない者達もスモーカーの次の言葉に注目する
「お前ら……ここから下はただの願望だろうが………」
後半につれイリスの性格や兵達の願望が生々しく書かれている
それは最早、報告書では無くイリスにはこうあって欲しいという想像をただ箇条書きにしているだけ
前半がまともに分析してあるだけに兵達の思考にヤバイものを感じる
「ハッ!言われてみればそうであります!」
「いやぁ……全く気づかなかったです」
全然気づかなかった、とファンクラブ会員達はいそいそと報告書に訂正をかけていく
スモーカーには理解出来ない
会った事もない女にこれ程までにいれ込む
コイツらの心理が…………
仕事をさせ過ぎたか?
訓練でしごきすぎたか?
「お前ら疲れてんだろ?そんなんじゃいい仕事は出来ねぇぞ……」
さっさと休め、と続けるはずが
「いいえ全く疲れてません!」
「むしろ今日は絶好調です!」
「彼女の事を考えてる時が至福です!」
「早く“麦わら”を捕まえていろいろ聞き出したいです!!」
喰い気味の返答にたじろぐスモーカー
(コイツら生身の女を知らねえんじゃねえか?)
平均年齢が若めのファンクラブ会員達にそんな疑問がよぎる
女に幻想を持ちすぎているのかもしれない
詰め所を後にし、このままでは仕事に支障をきたしそうだと心配になるスモーカー
「アイツらには今度、女でも紹介してやるか……」
めんどくせぇ……
本来ならこんな事まで世話を焼く必要も無いのだがこれも部隊の為、と割りきって酒場と娼館の費用は経費で落すことにした
そして、このめんどくさい原因である手配書の事を思い出す
たしぎの話では、どっかのバカ貴族か王族がフラれた腹いせに賞金首にし、悪事は働いておらず、無実らしい
だが、顔が知れわたるだけでここまで影響力のある人物も稀な訳で…………
「案外、こういう奴が大事件を引き起こしたりしてなぁ~」
アラバスタの月夜、スモーカーの影はゆっくりと消えていった
遠くない未来
スモーカーの予見はあたる