第16章 空の上 海の中
「お前は医者として正しい心を持っている、それで十分だ……」
ベポに優しく語りかけるロー
「お前のおかげでオレも何かを思い出したよ………ベポ、自分に出来ることをしろ、今そこに居ることがお前の仕事だ……」
いつもより優しい船長、医者として認められた事もあってベポは上機嫌で答える
「うん!オレここに居る、医者だから!」
じゃあ大人しくしてろよ、とその場を後にするロー
離れた所で事の成り行きを見ていたシャチ達は
「船長、オレ感動しちゃいました!」
「ベポの事を認めてやったんッスね」
と、ローに駆け寄ってくる
しかしローは………
「これで5日は持つんじゃねぇか?」
後はうまくやれ、と笑うロー
「「……………………」」
不敵に笑ったその口から出た言葉に、二人は黙って顔を見合わせた
(ベポを大人しくさせることしか考えていなかったんだ………)
(オレらの感動は…………?)
立ち止まる二人を置いて、ローはまた医務室へと足を進めた
それから2日、二人はまだ目を覚まさない
男の方は、やっと体の色が赤黒から赤に変わってきて、順調に回復している
イリスの方は体の赤みも薄らいで、もうとっくに意識を取り戻してもいい頃だった
意外に目を覚まさないな、とローは首を捻る
随分前からイリスの脈拍は安定している、それなのにこれ程回復が遅いのは、彼女本人の体力の無さなのだろうか………と、ローはその体を見渡す
小柄な体、長い黒髪、整った顔だちは手配書よりも幼く見える
ルーフス病で赤みの残った目と肌は、元はきっとサファイアのように美しく、白磁のように滑らかだろう
胸元と左腕の刺青が気になり、布団を持ち上げ左腕に触れたとき、僅かにイリスが身動いだ
「うぅ……んっ………エー……ス?」