第5章 Episodes櫻井:優しさの裏と表
「翔の親はさ、建前1番世間体2番な
人の目を気にする親やってん。
まあ仕事柄しゃーないのかもしれんけど
だからこそ翔は文武両道、
勉強も運動もそれなりに出来んとあかんかった
付き合いで取り引き先相手の娘さんと
一夜を共にしなきゃあかんこともあったらしい」
「…それって櫻井さんの気持ちなんて
まるで無視な事じゃないですか」
「せやで。でもな、寮母さん
金持ちの子どもは
それを普通だと考えなきゃあかんねん」
自分の為ではなく、
客観的に見て素敵だという
良いイメージを壊すようなことは
決してしてはならなかった
「嫌と思うことにNOと示せない
これが好きだと感じるものに
好きだと発してはならない
翔はそんな環境で育ってたんやで」
たしかに櫻井さんは、
寮母である私が居るにも関わらず、
料理、洗濯、掃除
家事全般はしていたし、
買い出しや献立、
消耗品の補充とか
細かい所まで見ていた気がする。
「きっと辛かったと思う。
妹はアホでちゃらんぽらんやから
家に1ヶ月帰らんのも普通な奴やったし
八つ当たりされてたみたいやしな」
「櫻井さんは何故、避けるんですか」
「あんたを2度と傷つけたくないからやろ
翔は人の痛みには人一倍敏感や。
あんたを傷つけたら絶対ダメ、
それが翔には分かってんねん。やからやろ」
傷つけたくない
でもだからこそ、
私は櫻井さんに歩み寄らなくちゃいけない