第81章 そして誰もいなくなった
(うん。気持ちはわかるけどね)
額に青筋を浮かべながら周りを見渡し、上司であろうコムイに怒鳴り散らす。
そんな同胞達を見ながら、南は力なく苦笑した。
気持ちはわかる。
痛い程。
「しッ。皆静かにっ」
やんややんやと騒ぐ彼らを止めたのは、ヘッドフォンをした耳に手を当てて謎の声に集中するマリだった。
「声とは別に、何か音がする…!」
「はっ?べ、別ってなんさ…ッ」
「また怖いこと言わないで下さいよマリ…!」
「本当なんだ、仕方ないだろう。近付いてくるぞっ」
「えええ…!」
「まじかよ…!」
マリの性格上、悪ふざけでそんなことは言わない。
わかっているからこそ、アレンもラビも顔を青くさせ震え上がった。
となると、この謎の笑い声は誰なのか。
近付いてくる別の音とは。
もしかしたら本当にホラーの類かなにかか。
固唾を呑んで見守る一同の視線の先は、マリが注目している場所──研究室の出入口。
大きな両開きの扉。
ギィイイイ…
その扉が、ゆっくりと音を立てて開かれた。
扉の近くには誰もいない。
外にいる誰かの手によって開かれたらしい。
辛うじて外の雷の光で、薄らと見える研究室内の風景。
開かれた扉の向こうは、停電の為に真っ暗闇。
塗り潰されたような暗闇で何も見えない。
───コツ、
扉の先。
闇の中から聞こえたのは、誰かの足音だった。
「え…」
「あれは…」
こつりこつりと足音を立てて、ゆっくりと暗闇から現れた人物。
「ふ…婦長…?」
それに真っ先に気付いたのはアレンだった。
「え?婦長?」
「あ…本当だ」
「なんだぁ、婦長か」
「吃驚した…っ」
研究室へと踏み込んでくる、見慣れた厳しい顔立ちのエプロン姿の女性。
医療班をまとめる婦長の姿に、どっと皆の顔が安堵へと満ちる。
「でもアレン、この暗さでよく見えるね」
「あー…師匠との修行時代の節約生活で、夜目が利くようになりまして…」
「へ、へー…(目が笑ってない…)」
誰よりも真っ先に気付いたアレンをジョニーが感心気味に褒めれば、少しばかり照れ臭そうに笑う。
しかし厳しい修行時代を思い出してか、アレンのその目は一切笑っていなかった。