第81章 そして誰もいなくなった
「───リーバーさん。これ以上やばい劇薬とかないでしょうね」
「や、所詮俺ら如きが作るもんだし。そんな常識外れなの作んねぇよ」
「充分外れてんだよお前らも」
再び再開する引越し作業。
問題は残されているが、止めるわけにもいかない。
辺りを警戒するような顔で問うアレンに、リーバーも苦笑しか返せないでいた。
神田の言葉が何よりも正論だろう。
「だーいじょうぶだって、アレン!コムイ室長みたいなヤバいのは、流石にな」
「あるの?」
「へっ?」
「あるの?まだ危ない薬。あるんでしょジョニー」
「ぃ、いやでも…っ本当に危険なのはちゃんと室長から取り上げて隠してあるから…ッ」
あはは、と笑顔で語っていたジョニーに迫るアレンの顔は、口元は笑っているが目が一切笑っていない。
(やっぱり怖い…)
そんなアレンの笑顔の脅迫を前にして、たじたじと言い訳のような言葉を続けるジョニー。
後退っていく彼の気持ちが痛い程わかると、南は心の中で頷いた。
「じゃあ此処にはないの?」
「う、うん!だから安心して───」
その時だった。
ふっと、突如として研究室内が暗闇に包まれたのは。
「あれ…停電?」
「げ。こんな時にかよ…タイミング悪い…」
「まだ荷物まとめ終わってないのに~」
「雷でも落ちたかなぁ?」
ざわめく研究室。
しかし突然光を失った空間では、下手に動けない。
それもこんな問題のある薬品だらけの空間では。
「お前ら、下手に動き回って物壊すなよ。俺が電気見てくるから」
最初に行動を起こしたのはリーバーだった。
その意見に反する者は誰もおらず、大人しくその場に立ち尽くす。
「南、大丈夫さ?」
「うん。私は平気」
真っ暗闇だが、外は激しい雷のおかげで多少明るい。
傍に立つラビの存在を感じ取りながら、南は頷いた。
───…ヒ…ひヒ…
「───!」
ぴくりと頭の獣耳が揺れる。
ぴんと立った細長い耳は、音の方へと傾いた。
(何。また?)
微かな、笑い声のようなもの。