第17章 童謡あそび
…よし。
「とにかく、此処も調査しないと。あの暖炉まだ調べてないし」
「げ。まだ調べんの?」
「勿論」
仕事に集中しないと。
顔を上げて心を切り替える。
大広間の隅にある古びた暖炉に歩み寄る。
大きくて立派な造りのそれを覗けば、つんとした臭いが鼻を掠った。
…ん?
「炭の臭い…?」
にしては、どことなくきな臭いような…。
思わず四つん這いになって身を乗り出して中を覗き込む。
本来の暖炉なら、煉瓦なり丈夫な床があるはずなのに。
其処には古い木の柵が被せられていて、床には暗い穴がぽっかりと空いていた。
珍しいな、こんな形の暖炉。
「南ってさ、怖くねぇの?幽霊とか」
「怖くない訳じゃないけど…職業柄、関わることが多いし。いちいち怖がってたら仕事にならないから」
それに現地に赴くのは、ファインダーとエクソシストの皆さんだし。
私は情報を知るだけなので然程怖くないんです。
つまりは高みの見物、安全なので。
……ファインダーとエクソシストの皆さん、ごめんなさい。
「真っ暗で何も見えないなぁ…」
柵の隙間から暗い穴の中を覗く。
下にぽっかりと続いているそれは、結構深そうだった。
地面に穴でも掘って作ったのかな。
「あんまり顔突っ込むと煤だらけになるぞ」
後ろからラビの声が近付く。
「うん、もうちょっと───」
そう言いかけた時。
身を乗り出していた所為か、するりと胸ポケットから"それ"が滑り落ちた。
「あ…!」
柵の隙間に吸い込まれるように落ちていくそれ。
リーバー班長から預かった御守りのネクタイ。
あっという間に闇に溶け込むように落ちていく姿に思わず、焦った手は強く柵を掴む。
バキッ
それは一瞬の出来事だった。
「へ?」
古い木が割れる音に、一瞬間抜けな声を漏らす。
これって木の柵が壊れ───
「うわあぁあぁああ!?」
「げぇっ!南!?」
腐ってでもいたのか、強く掴んだ木の柵は呆気なく折れて壊れてしまった。
同時にその上にあった私の体は、あっという間に暗い穴の中に吸い込まれていく。
ああもう本当。
落下は跳び下り下車だけで勘弁して下さい。