第80章 再生の道へ
「とにかく。一応僕らで、これは"結晶型"と名付けた」
こほん、と咳払いをしてコムイが空気を変えるように仕切り直す。
「…結晶型…」
その名に反応を示したのは、椅子に座っていたリナリーだった。
何気なく呟く声に、隣に立っていたコムイが目をむける。
と、はたと目が合う。
リナリーのそれと。
途端に、ぱっとコムイは呆気なく視線を外した。
それは実の妹であるリナリーには一目でわかる程の、不自然さだった。
思わず息を呑むリナリーの他に、コムイの不自然な行動に気付いている者はいない。
「………」
否、一人だけいた。
それは分厚い書類を捲る手を止めて、僅かに眉間に皺寄せたリーバー。
(…自分だって歩み寄んの、渋ってるじゃないっスか…)
ついそう口に出したくなって、出たのは溜息一つ。
南とのことに茶々を入れてくる割には、彼だって妹ときちんと向き合えていない。
沢山の人の命が散った戦場の中で、様々な思いが交差した本部襲撃。
自らイノセンスを体内に取り入れ、重い覚悟を込めて結晶型になったリナリー。
そんな妹を何より大切に思っているからこそ、複雑な思いもあるのだろうが。
他人事は簡単に背中を押せても、己のこととなると簡単に足は進まなくなる。
それは誰しも同じなのかもしれない。
「コムイ。その結晶型はリナリーだけしかならないんさ?」
「いや…まだ断定はできないが、恐らく他の装備型適合者にも起こる可能性は高いだろう」
「ふーん…神様は私達を強くしたいってことか」
「……仕方ありません」
ふむふむと頷きながら呟くティエドールに反応を示したのは、彼の部隊所属であるマリだった。
「先日の襲撃…江戸からの帰還直後で隙があったとは言え、元帥がいなければ本部は壊滅でした。これは弱気になって言うのではありませんが…私には、伯爵が我々などいつでも殺せると。そう言ってるように感じました」
その言葉に周りは静寂に包まれる。
誰もマリの言葉を否定はしなかった。
"そんなことはない"と言い切れたらいいのに。
しかし言い切れない、各々の思いがあったからなのかもしれない。