第80章 再生の道へ
いつの間に修練場にやって来ていたのか。
エクソシストの誰も気付かない程、気配はなかった。
「理由があるなら教えてくれるかしら」
コツ、コツ、とゆっくりと歩み寄る看護靴の足音。
まるで死の宣告を迫るような、時の刻みのようにも聞こえる。
一斉に固まり動けないでいる南達は、顔面蒼白。
誰も口を開けない。
「まさか体を鍛えたいだとか、仕事をしたいだとか。そんな理由じゃないわよね」
コツリ、と南達の前まで歩み寄った婦長の体が止まる。
「命を重んじる私達の忠告を蹴ってまで外出したんだもの。きっと大事な理由があったのよね」
その口元には、綺麗なまでの微笑みが浮かんでいた。
「ねえ?」
一切笑っていない目で。
(あ。)
その時、チャオジーを除く入院患者全員の心境は、奇跡的にシンクロしていたという。
(殺される。)
命を重んじる彼女から与えられるであろう、死への恐怖に。