第78章 灰色の世界
「………立て…か、」
ぐっと膝に手を置いて、地に伏せそうになっていた体を起こす。
ぱちぱちと耳に残る火の粉。
他には何も音はない。
ゆっくりと顔を上げる。
以前変わらない、強い光を放っている炎の海。
抉れた床に、崩れ落ちた瓦礫類。
人の生も死も感じられない壊滅状態の研究所の前で、一人オレだけ残されたまま。
「…これが、戦争」
何度も見てきた。
"ラビ"は49番目の名前。
その数だけログを回って、その数だけ人の争いを見てきた。
醜い思考、焼けた土地、充満する死臭、赤い世界。
それは目を背けたくなるものばかりで、幾つもこの目に映しては、所詮愚かな"他人事"だと割り切って生きてきた。
じゃねぇとオレがしんどくなるだけだから。
そうやって逃げ続けて、色んな"死"から目を背けて。
…あの時のアレンの"死"だって、仕方ないなんて言葉で片付けた。
その結果が、これだ。
「…ッ」
自分の命に代えても守りたいと思った大切な人。
そんな人を失う痛み。
苦しいとか悲しいとか、そういう思いより先に、ぽっかりと胸に穴が開いたまま。
言葉にならない。
こんな心、オレは知らない。
今までこんな経験したことなんてなかったから、どう対処していいのか。
わからない。
ただ一つだけはっきりしていたことは。
何か行動を起こさないと、今此処で自分が崩れ落ちてしまうことだけだった。
「…レベル…4…」
……そいつが、南やジジイ達の命を奪ったのか。
深く息を吸い込む。
空気は喉に熱くて、むせ返るような焼ける嫌な臭いがした。
ぱちぱちと火の粉が弾ける音。
音はする。
むせ返るような熱い空気。
臭いもある。
ただ一つだけ。
「………」
目の前に広がる景色は、色を失ったかのように。
全ては一色。
灰色の世界。