第78章 灰色の世界
"仕方ないことだったんさ…っオレらは昨日、必死に戦った"
頭に蘇ったのは、過去の記憶。
あれは…あの荒げた声は、誰に向けて言った言葉だったっけ。
"どうしても助けらんなかったんだよ…っ"
…どうしてもってなんだよ。
"仕方ない"なんて言葉で片付けて、正当化しようとしているオレ自身の言葉。
……ああ、あれは…中国でノアにやられたアレンが死んだって思って、ずっとリナリーが落ち込んだまま…まともに話そうともしねぇから。
うじうじするその姿に、エクソシストだろってつい苛立ったんだ。
"戦争なんさ、仕様がねぇだろ!諦めて立てよ!!"
オレらは仲間の"死"に悲しんでる暇なんてない。
エクソシストなんさ。
戦場の最前線に立って戦わなきゃならない存在。
仲間一人の死で立ち止まる訳にはいかない。
そう、当たり前に思ってた。
間違ったことなんて言ってないと思ってた。
リナリーが泣いちまって、その後ジジイにゃ怒られたけど。
戦争にハマるなって、ブックマンとして場を弁えろって咎められたけど。
でもオレが言ったことは、正しいんだって思ってた。
前に進まなきゃ戦争に勝つことはできない。
誰だって仲間の死を乗り越えて、勝ち取ってるもんなんさ。
誰も死なない戦争なんてない。
それは当たり前のこと。
そう、当たり前の───
「……諦めて立て、かよ…」
自分が言った言葉なのに吐き気がする。
んなこと、リナリーだってきっとわかってた。
オレより長くエクソシストとして戦って、兵士として戦場に立ってたんさ。
震える体を抑え込んで戦場に向かった、さっきの背中を思い出す。
あんな強い思い持ってんのに、わからないはずがない。
それでもきっとあの時アレンの為に泣いたのは、意思より心が超えたからだ。
アレンの死を理解してても、心が否定する。
………今のオレと同じだ。