第77章 生と死
───クスクス
赤子のような笑い声が近付く。
同時に嫌な予感は増した。
リーバーさん達もそうだけど、何より。
「南さん…ッ」
僕の失態でボロボロの体にさせてしまった。
それでも僕に、ありがとうと笑ってくれた。
あの人にこれ以上、血を流させたくない。
「っ!」
赤い煙の隙間に、見知った姿を見つけた。
「ジョニー!」
蹲るようにして床に横たわっている、その姿に駆け寄る。
「皆は──…!」
ダンッとジョニーの前に足をついて辺りを見渡す。
否、見渡そうとした。
「ッ──…!」
息を呑んだ。
見渡さずとも、目に飛び込んできたその光景に。
赤。
真っ先に飛び込んできた色はそれだった。
鮮やか過ぎる程の深紅。
それが放射線状に、大きく飛び散っている。
どこもかしこも血の水溜りのように広がっていて。
そのあちこちに倒れているのは、リーバーさんやバクさん達の姿。
誰一人、目を閉じて倒れたまま動かない。
「……南…さん…?」
その中で一人だけ、その場に座り込んでいる小さな背中が見える。
顔は見えなかった。
真っ直ぐに、目の前の"物体"に向けられていたから。
血に塗れた、真っ赤な歪なオブジェのようなもの。
あれは───…なんだ?
「…ア…レ、ン……」
声はそこから聞こえた。
「し…し、ん…か……しんか、した…」
途切れ途切れの濁った声。
歪なオブジェから上半身だけ出ているその人は、弱々しく片腕を上げて"それ"を指差した。
───ズ…
その震えて掲げた腕に、赤黒い星型模様が浮かび上がる。
あれは、AKUMAのウイルスを体に取り込んだ人間に表れるもの。
"死"の症状。
「マ…ビン、さ…」
背を向けて顔が見えない南さんの、その口から零れ落ちる名は。
そのオブジェに取り込まれて、死にゆこうとしている人の名だった。