第76章 終わりの始まり
「なん──…っ」
反射的に悲鳴がした方へと顔が上がる。
見えたのは、AKUMAに捕まっている南とアレンの姿。
「ほーら、痛い痛い。大人しくしなけりゃ、もっと傷口抉るよー」
でも俺の目は南とそのAKUMAを捉えて離さなかった。
「ッか、は…っ」
AKUMAの腕の中で、ぐったりと項垂れている南。
項垂れたその体を担ぐAKUMAの手は、真っ赤に染まっていた。
…なんだ。
何、してる。
今の悲鳴は…南、から?
「班長、ブックマンもやられてる…!」
「クソっやっぱり数が多過ぎたんだ…!」
傍で発するロブ達の声が、どこか遠くに聞こえる。
「あー、やば。そんな声聞いたら食っちまいたくなる」
「オイ、それ以上はダメだぞ。殺したらルル=ベル様にオレらが殺される」
「ヘイヘイ。ったく、人間ってのは面倒な生き物だなァ。すぐに死んじまう」
なのに何故かはっきりと耳に届いたのは、遠くにいるはずの南とアレンを抱えたAKUMA達の会話。
AKUMAは千年伯爵によって造られた悪性兵器。
伯爵の作り上げた魔導式の機械と、人間の魂、そして悲劇を材料に造り出される。
レベルが上がるにつれてその知性や自我も強くなる。
此処にいるAKUMA達は全て、恐らくレベル3程のもの。
今確認されているAKUMAレベルの中で一番高い。
その分、自分の意思や理性もしっかりと働く。
だがそんなレベルでも決して逆らえない欲求がAKUMAにはある。
それは殺人的欲求。
得られている情報では、AKUMA達はそれを"食事"とみなして表現することが多い。
故にAKUMAが腹を空かせた言動は、その欲求が強まっていることを示していて、"食する"という言動は"殺し"に直結する。
南が、AKUMAに殺されかけている。
「──ッ…!」
疑いようのないその事実に、ぞわりと悪寒が全身を走った。