第75章 無題Ⅰ
何が起きたのか、頭が理解するのには時間がかかった。
それより早く私に現状を伝えてきたのは、この体。
「ぁ…痛…ッ」
ズグリと腹部が痛む。
思わず顔が歪めば、開いた口から赤い唾液が滴り落ちた。
「ダーイジョウブ、死にやしないよ。急所は外してあるからねえ」
「っ…!?」
カタカタと顔のすぐ横で剥き出しの歯を鳴らして笑う、知らない生き物。
知らないけど、その機械的な体や嫌な独特の雰囲気ですぐに理解できた。
これはAKUMAだ。
「死なれちゃ困る。ほらほら、しっかり意識保って」
「ぅあ…ッ!」
ズッ、と遠慮なしに腹部から引き抜かれる腕。
腕というより鋭利な刃のような形をしたそれは、私の腹部を裂いて真っ赤に染めていた。
激痛に顔が歪む。
抗う気力も持てない私の体を腕に抱えて、AKUMAはゆっくりと宙に浮遊したまま降下していった。
「ぅう…」
「ぃた…痛い…ッ」
「…ぁぐ…」
あちこちから聞こえる呻き声。
AKUMAの腕の中から見えたのは、真っ赤に染まった研究広間。
「ッ…!」
まるで地獄絵図のようだった。
研究広間にいた研究員全てあちこちに倒れていて、その体から零れる赤い血で床を真っ赤に染めていた。
その原因は恐らく至る所を浮遊している、この機械のような体を持つ奇妙な生き物達。
これ全部AKUMA…っ?
一体どうやって本部内なんかに。
激痛で霞む頭の中、思い出す。
そういえばこのAKUMA達は、研究広間の出入口を塞いだ謎の黒い壁から、一斉に飛び出してきていた。
バク支部長の私を呼ぶ声が聞こえたけど、回避する暇もない程一瞬の衝撃で、突進してきたAKUMAに体を貫かれた。
そういえば、バク支部長…そうだ、ジョニーは。
リーバー班長は…皆は無事なの?
「っ…」
本当に急所は外れているらしく、激痛はあったけど意識を飛ばす程じゃない。
その痛みに耐えながらAKUMAの腕の中から、辺りを見渡す。
あちこち倒れている研究員を、引き摺っていくAKUMA達。
その中にリーバー班長やジョニー達の姿は見当たらなかった。